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凍結乾燥法と状態のよい乾燥品を

凍結乾燥法を利用した身近な例としては、インスタント食品等の
乾燥食品が挙げられます。その他医薬品の製造や新素材の開発など
さまざまな用途に幅広く利用されています。
ここではその原理などについて簡単にご紹介いたします。

原理

凍結乾燥法は、試料中の水分を
氷点以下の温度で凍結させ、
その状態のまま昇華によって
水分を除去乾燥させる方法です。

水は大気圧(約0.1MPa)の時100℃で沸騰し、0℃で凍結します。また富士山の頂上のように大気圧より低い所では100℃以下でも沸騰します。さらに圧力を下げて610.6Paになると0℃で沸騰します。0℃は氷点でもあり固体、液体、気体の物質の三体が存在する状態で三重点といわれています。この三重点以下の圧力においては、水に与えられた熱は昇華熱として機能します。この時試料は、圧力に対応した温度を保ちながら昇華していきます。このように凍結乾燥では、低温下で凍結状態のまま試料内の水分が除去され、水分が昇華しきるまで試料は周囲温度にならないため、試料の物理的・化学的変化が極めて小さくてすみます。また乾燥試料に再度水分を加えるだけで復元性がよく、食品や医薬品などに広く利用されています。
構造

凍結乾燥機は試料を
冷却または熱供給するための熱源、
装置内の圧力を
下げるための真空ポンプ、
昇華した水分を捕集するための
コールドトラップ
で構成されています。


■熱源(試料の凍結):試料を予め凍らせておく(予備凍結)ために必要であり、大型の棚構造の装置の場合は棚に直接冷却パイプや低温の熱媒体を循環させる構造になっています。ラボタイプの場合は低温水槽やフリーザーなどで予備凍結します。
■熱源(試料の加温):乾燥工程での昇華の促進と結合水分を除去させるためのものであり、棚構造の装置は棚に直接ヒータや加温された熱媒体を循環させる構造になっています。ラボタイプでフラスコなどで凍結乾燥する場合は室温が熱源となります。
■真空ポンプ:装置内の空気を吸引し、装置全体の圧力を下げて真空を維持します。真空を維持することで、試料の昇華面を自己凍結させる機能も果します。
■コールドトラップ部:乾燥を進行させるには試料から発生する水分を絶えず除去し、試料のおかれている環境湿度を下げる必要があります。ところが、物質には飽和湿度があり、環境湿度が高くなると水分の蒸発が抑えられ乾燥が止まってしまいます。この時、コールドトラップ部は装置内の水蒸気を排気する機能を果たします。例えば13.3paの真空下ではわずか1gの水分が水蒸気となっただけでも10mもの体積に膨張してしまいますので、真空ポンプだけで除去しようとすると莫大な能力が必要となってしまいます。しかし、トラップ部は-50℃とか-80℃というように低温にしてあるので、トラップ部の環境圧力は試料の置かれている環境圧力より低くなり、試料から発生する水蒸気を気圧の差でスムーズに捕集することができます。
操作

凍結乾燥の一般的な操作方法を
大別すると、予備凍結工程→
一次乾燥工程→二次乾燥工程→
乾燥試料の取出し、に分かれます。

■予備凍結:試料を予め凍らせる工程です。試料中の水分は純粋な水ではなく何かが溶け込んでいますので0℃では凍結しません。厳密には共晶点(試料の凍結する温度)を測定して、その温度以下で確実に凍らせる必要がありますが、一般的には-50〜-40℃程度の温度で予備凍結を行ないます。
■一次乾燥:凍結した試料を真空下で乾燥していく工程です。試料中の水分(氷)は試料表面から順次昇華していくので、すべての氷が昇華するまでかなりの時間を要します。また、加熱と昇華のバランスが悪いと途中で試料が融けてしまったりするので、乾燥条件(加熱温度や真空度)は慎重に決める必要があります。減率乾燥とか昇華乾燥という場合もあります。
■二次乾燥:一次乾燥でほとんどの水分は除去できますが、分子間で結合されている水分はまだ残っています。この結合水を除去するために試料に影響のない温度まで加温させて最終乾燥を行ないます。恒率乾燥という場合もあります。
■乾燥試料の取出し:ラボ実験での乾燥試料は、装置内を大気圧に戻してそのまま取出して使用したり保存したりしますが、分析用や食品、医薬品試料によっては酸化を嫌う場合があります。このような試料の場合は、真空状態のまま試料容器を密栓したり、装置内を不活性ガスに置換させて密栓してから取出します。
テクニック

凍結乾燥を行なう際の
状態のよい乾燥試料を得るための
テクニックの例です。

■予備凍結時:水はゆっくり冷やすと大きな氷に、急激に冷やすと小さな氷になります。この現象を利用して予備凍結時に温度勾配をつけると氷のサイズが調整できます。これは乾燥試料のポーラス(空隙)部分の大きさを変えることにもなりますので、乾燥試料の粉砕サイズの調整や、再復元の調整などに用いられています。生体試料などでは、水が凍る時の膨張によって組織が破壊されるのを防ぐため、ポリエチレングリコールや t-ブタノールなどを試料中の水分と置換させて凍結させる手法も用いられています。アルコール系を含む試料では、乾燥試料を使用する際に影響のない凝固剤を混ぜて凍結させたり、次の乾燥工程で真空度を調節するなどの工夫を行なっています。固体が混ざった試料をできる限り均一に凍結させるために、低温にした冷媒槽にスプレーガンで試料を噴霧噴射させて、瞬時に凍らせるような特殊なテクニックを用いている場合もあります。
■一次乾燥時:凍結乾燥での失敗の主な原因には、「1.予備凍結が完全にできていない」「2.一次乾燥時に試料が融けてしまう」「3.完全に水分が除去していないのに乾燥を終了してしまう」が挙げられます。特に一次乾燥においては試料を融けさせないようにすることが重要なポイントとなります。その際の一番確実な方法は試料が融けない温度(共晶点以下)で一次乾燥させることです。共晶点を知るための簡単な方法は、予め試料を凍結させる時に試料温度を測定・記録することです。共晶点になると試料温度が平衡または一時的に発熱するので確認できます。この温度以下で一次乾燥を行なえば、試料が融けてしまうことはなくなります。但し昇華させるためにかなりの時間を要しますので、凍結試料の厚みを変えたり、予備凍結時の氷サイズを大きくさせるなどの工夫をして共晶点以上の温度でも融けない調整が必要です。アルコール系を含む試料で完全に凍結できていない場合は、この乾燥工程で真空度を調整して先にアルコールを飛ばして水系のみにしてから、通常の真空下で乾燥を行なう、などのテクニックが用いられています。
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